2017年10月16日
地球環境
研究員
間藤 直哉
プロ野球、今年のオフシーズンの話題はなんと言っても、噂されている日本ハムの大谷翔平選手のメジャーリーグ移籍だろう。エースで4番は高校野球まではままあることだが、プロ入り後もピッチャーとバッターの「二刀流」を貫くのは極めて稀だ。これには本人の希望もあったようたが、投球も打撃もどちらも超一流のため、球団側で打撃を捨てるのは「もったいない」という考えがあったことだろう。一方、大谷選手に注目するメジャー球団では、ピッチャーとしての評価が高いという。もったいないが打撃は捨てるのか、メジャーでも二刀流で行くのか、いずれにしてもメジャーでの活躍が楽しみだ。
外国語に訳すのが難しく、この「もったいない」という言葉は大谷選手より先に海を渡っている。そのきっかけを作ったのは、2004年に環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニアの環境活動家、故ワンガリ・マータイさんだ。
マータイさんは2005年に来日した際に「もったいない」という日本語に出会い、Reduce(ごみ削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)の3Rと、地球資源に対するRespect(尊敬)の全てを網羅する世界共通語「MOTTAINAI」として拡げることを提唱した。ちなみに、岩波書店の広辞苑によれば、「もったいない」の意味は「神仏や貴人などに対して不都合である。不届きである」「過分のことで畏れ多い。ありがたい。かたじけない」「そのものの値打ちが生かされず、無駄になるのが惜しい」となっている。
日常の会話の中で「もったいない」を使う時には、3番目の「無駄になるのが惜しい」というのが一番近いような気がする。しかし、多くの日本人が「ご飯を残すのはもったいない」「まだ使えるものを捨てるわけにはいかない」と思う時に、純粋に無駄は排除すべきであるという合理性よりも、「お天道様に申し訳ない」「せっかく作ってくれた人に失礼だ」といった思いが、心のどこかにあるのではないだろうか。なかなか、奥深い言葉なのだ。
もともとエコの観点から注目された「MOTTAINAI」という言葉であるが、エネルギーの分野にもこの発想を展開していく必要があるのではないだろうか。地球温暖化対策に有効な再生可能エネルギー資源は地球上の至る所に存在しているのに、人間はいまだに石油や天然ガス、石炭など温暖化ガスを発生するものを掘り出して燃やしている。しかも、資源小国の日本は化石燃料を燃やしてタンカーを動かし、遠い外国から化石燃料を運んでいる。なんとももったいない状況だ。
さらに、日本は諸外国と比べて再生可能エネルギーの利用・普及が遅れている。発電に要するコストの面で火力発電にかなわないためだ。買取制度などによって太陽光発電は急速に普及してきたが、耕作放棄地に発電パネルを設置し、土地を荒れ放題にしているケースもあり、景観上の問題があるなどとして、近隣住民とトラブルになることもあるようだ。
そんな中、「ソーラーシェアリング」という取り組みが注目を集めている。太陽光パネルを設置して発電するだけでなく、パネルの下のスペースを農地として有効活用するもので、さながら再生エネルギー界の「二刀流」とも言うべき存在だ。透過性の太陽光パネルを使ったり、パネルの配置を工夫するなど、作物の生育に必要な太陽光を確保して、その土地に適した野菜を作ったり、牧草地にして牛に食べさせるなどの取り組みが進められている。
宮城県登米市などでは、逆転の発想で太陽光パネルでできる影を活用して、日射を嫌うキクラゲの栽培が始まっている。日本国内で流通するキクラゲの9割は中国産の乾物。国内生産、しかも生のキクラゲには希少価値があり、飲食店からの需要も期待できることに目をつけた。
ソーラーシェアリングは農地として活用することで、土地が荒れるのを防ぎ、新たな雇用を生み出すこともできるので、一石二鳥にも三鳥にもなるアイデアだ。「発電にしか使わない、そんなもったいないことは止めよう」という発想だろう。
再生可能エネルギーの普及には発電コストの低減も必要だが、ソーラーシェアリングのように発電とは別建ての利益を生み出し、同時に問題も解決できるようなアイデアは重要だ。周りに「MOTTAINAI」資源が放置されていないか、「MOTTAINAI」システムになっていないか。それを発見し、解決するアイデアにたどり着けたら、地球温暖化対策がまた一歩進むかもしれない。
間藤 直哉